今回読んだ本は、村上春樹翻訳の『恋しくて Ten Selected Love Stories』です。
この本は作家の村上春樹さんが選んで訳した海外のラブストーリー9つ、プラス村上さんが書き下ろしたラブストーリー1つのアンソロジーです。
ストレートなラブストーリーや、少し大人のほろ苦いラブストーリー、さまざまな国でのさまざまな立場での恋愛物語が集まっています。
各物語の最後には村上さんの解説と恋愛甘苦度と称した甘味と苦味のバロメータも。
他の作家の作品を村上春樹が訳すことで、村上作品とは違う物語の中で、村上の表現が散りばめられていて、また違った村上春樹を楽しめるところが良い点だと思います。
ここからネタバレあり
私が特に好きだった作品を3つ、あらすじと私の感想を紹介します。
「愛し合う二人に代わって」
インテリで内気な男の子と、女優になりたい美人な女の子の話。
男の子はずーっと彼女のことが好きなのに、全然行動できなくて激しくヤキモキしました笑。
美人な彼女は奔放でどこかに行ってしまいそう。
そんな彼のモヤモヤした不安と、戦争中の兵士に代わって2人が行う代理結婚が重なって、なんだかこっちも不安になります。
私が特に好きだったのは、彼から見た彼女の描写がすごく愛に満ちていてうっとりしてしまう所。
「君も——」と言いかけたが、その光景を想像して言葉がつっかえてしまった。「ストリップをするわけ?」
「まさか、やらないわよ」と彼女は言った。そして昔と同じように声を上げて笑った。彼の愛するその顔のまわりで天使のようにカールした髪が躍った。
ドラマ化してもいいくらいストレートな恋愛物語で、最後は感動してしっかり泣いてしまいました!笑
「ジャック・ランダ・ホテル」
付き合っていた彼が、他の若い女の子と恋に落ちカナダからオーストラリアに行ってしまう話。
主人公は自分のブティックを閉めて、彼を追いかけてオーストラリアへ!
もうその時点で、えー?!って感じなのに、他の人になりすまして彼と手紙交換をし出したときは面白かったです。
彼女がサンディーと一度も顔を合わせたことがないというのは、今にして思えば不吉なことだった。
それが意味するのは、ウィルが何かをとても素速く悟ったに違いないということだ。
彼(ウィル)が出会って恋に落ちた若い女サンディー。
ただの気の合う仲だったら紹介されてもいいはず。
それが紹介もされなかったということは初めから彼は彼女のことが気になっていたんだろう…女ってこういう推理ができて、自分で自分を悲しくできるよねぇと共感してしまいました。
「恋するザムザ」
これは一番最後に収められている村上春樹さん書き下ろしの物語。
カフカの「変身」の後日譚のようなものと、ご自身は解説しています。
カフカの変身とは逆に、虫から人間に変身したと思われる主人公が、背中が曲がった”せむし”の娘に好意を持つお話。
この世界にまだ慣れておらず全てがぎごちないザムザの試行錯誤がクスっと笑えるのと、彼の純粋な気持ちに、冷めた目で世界を見ている娘も最後は少しザムザに気を許すところが素敵でした。
「鳥たちに気をつけて」とグレゴール・ザムザは彼女の曲がった背中に向かって声をかけた。娘は振り返って肯いた。その片方にゆがんだ唇は少しだけ微笑んでいるようにも見えた。
娘がザムザの家から出発するとき、「鳥たちに気をつけて」と言ったザムザ。
以前は虫だったからなのか、物語の全体においてザムザは鳥を警戒しています。
見知らぬ他人だった二人が少し親密になったような気がして、たき火にあたるように心がほっこりしました。
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